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はじめに

その世界はユ-リニオンと呼ばれていた。

剣と魔法の論理が支配する世界。
暗い地の底には死の王が、大空には竜の王が存在し、
世界には様々な種族達が溢れていた。


この物語は、後に【白き魔女】として世に知られ
【精霊の主】ディノンによって滅ぼされる
魔法使いア-リンを中心に語られる青春群像である。


# by mytyan1971 | 2012-12-21 23:38 | 序章 

転章 9

そこは、陽の光から隔絶された場所であった。

人の世に知られぬ、先史魔法文明期に建設された パタ砂漠の地下に広がる神殿。

神殿の入口は魔法によって巧妙に隠され、
遂に誰にも発見されぬまま 現在に至っていた。

かつて
その砂漠の上空には、
ガーレーンという巨大な空中都市が存在した。

魔法の力によって浮遊していた
その石造りの都市には
数万人の人々が生活をし、自らの栄華を誇っていた。

ガーレーンの圧倒的な美しさは砂漠のオアシスであり
空中庭園に咲き誇る木々や花々の姿は
訪れる旅人達を驚嘆させ、
吟遊詩人たちは我先にと、その繁栄を歌にした。

しかし、ガーレーンは
先史魔法文明の末期に起きた戦いで
都市を浮上させていた魔法の力が暴走を起こし、砂漠に落下し崩壊してしまった。

数十キロに渡って砂漠に広がる都市の残骸が
落下の衝撃の規模を如実に物語っていた。
凍えるような砂漠の夜に
耳をすませば
亡霊たちの怨嗟の泣き声が二千年経った今でも
風に吹かれ届いてくるのであった。


魔法の明かりなのだろうか。
砂漠の地下に広がる神殿は、ぼんやりとした黄色に包まれていた。
神殿は、刻に浸食されてはいたが 比較的、保存の状態が良かった。

その広大な地下神殿に動く影があった。
その影は真紅のローブを纏っていた。
煌びやかな装飾品が鈍く乱反射している。
一際 目立つのは頭の上の王冠であった。

王冠には巨大な宝石がいくつもちりばめられていた。

この王冠一つで一つの国が興せそうであった。

真紅のローブを纏った人物は滑るように、
流れるように
通路を移動し、階段を移動していた。
あるいはそれは 空中浮遊(レビテーション)の魔法の効果かもしれなかった。

ローブの人物は神殿の中央に鎮座している巨大な水晶球の前に立った。

手をかざし短い呪文を唱える。


ああ・・・
感じる・・・彼の喜びを・・・


ローブの人物は静かに呟いた。


感じるぞ・・・我が友、我が輩(ともがら)よ・・・


水晶球が淡い光を放ち始めた。


イシュタル・・・

イシュタル・・・そなたは今一度、現世に復活を果たそうというのか・・・


イシュタルは二千年前、あの魔法戦の後、同胞の手によって封印された。
その封印の魔法は極めて強力だった。


あの魔法の力は強大で・・・遂に我ですら解く事は敵わなかった・・・


あの魔法を解く事が出来るのは、おそらく封印の術を施した本人だけであろう。

おお・・・イシュタルが
イシュタルが、喜びの声をあげている・・・

イシュタルの喜び
それは つまり
かつてイシュタルを封印した人物が、二千年の時を経て現世に転生した事を意味する。

巨大な水晶球の中に、雪を抱いた山々の姿が映し出されていた。
神々の座。
ユーリニオン中央に位置するピレー山脈。
そこに隠された玄室にイシュタルは今でも封印されているのだ。


イシュタル・・・
今度こそ、
今度こそは、
我の願いを叶えよ。


からからから
からからから


ローブの人物は楽しそうに笑い始めた。
王冠の下の、真っ白な髑髏の顔が歯を鳴らし 高らかに哄笑していた。
ぽっかりと空いた眼窩は、紅く妖しい輝きを放っていた。

真紅のローブを纏った人物
この人物こそは
ユーリニオンに現存する、ただ一人のノー・ライフ・キング
生命なき者の王
死の王であった。



蒼く、音のない世界であった。
そこは神々の住まう遥かなる虚空のようでもあり
陽の当たらぬ深海のようでもあった。

上もなく、下もなく
右も、左もなかった。
アーリンは、ぼんやりと浮かんでいた。
アーリンは、ぼんやりと沈んでいた。

わたし、いま どこにいるの・・・

アーリンは必死になって意識を集中しようとしていた。

しかし、考えるという行為そのものが、もはやひどく億劫な事であった。
このまま、ぼんやりと 揺れていたかった。
このまま、ぼんやりと 振動していたかった。

アーリンの前に、巨大な何かがいた。

それは、真っ白な蛇であった。

真っ白な蛇は 自らの尾を咥えながら、くるくると螺旋のように回転していた。

ウロボロス・・・

無限力・・・・・・

深い叡智を湛えた、それでいてひどく無機質な蛇の眼が
自らの尾を咥えたまま
アーリンを静かに見つめていた。
それは
オーム・・・
オーム・・・
と優しく振動しているようであった。

アーリンの意識の表層に何人かの人の姿が流れては、消えていった。
それは、なぜかしら鈍い痛みを伴っていた。

かあさん

ましあ

おとうさん・・・

それはお前の家族の姿だと記憶が囁いた時に、
アーリンを包んでいた優しい振動がおさまった。


ウロボロス・・・
わたし、いかなきゃ・・・
みんなのところへ・・・


娘よ。
行くがよい。
行って思う存分、世界の均衡を崩すがよい。


アーリンは激しく咳き込みながら、覚醒した。

目を覚ますと、すぐにむせ返るような煙を吸い込んで、
またしても激しく咳き込んだ。
辺りには視界を遮る程の、煙が立ち込めていた。
アーリンは涙目になりながら、
吹きつけてくる熱風に耐えかねて
慌てて起き上がった。

見渡せば、アーリンは城の外の草地に居た。
すぐ目の前で城が轟々と勢いよく燃えていた。

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# by mytyan1971 | 2011-12-07 20:54 | 転章 

序章 1

雲一つない空に月が浮かんでいた。

満月であった。

月明かりに隠れ、星達の姿はまばらに見えた。

波の音がする。

きらきらと青白く光る海岸線に、人影があった。

人影は打ち寄せる波を縫うように、ゆっくりとした足取りで歩いていた。

人影の纏う白いロ-ブが、月明かりの下でゆらゆらと揺らめいている。


波打ち際に人が倒れていた。

倒れているのは全裸の男であった。

その傍らには一頭の白い犬が佇立していた。

大きな犬であった。

白い犬は近づいてくる、ローブ姿の人物の様子を静かに窺っている。

犬の額には、一角獣(ユニコ-ン)を思わせる短い一本の角が生えていた。

その姿はあたかも神話の狛犬を彷彿させるものであった。

ローブ姿の人物は倒れている男の肩にそっと手をのせた。

全裸の男は数瞬の間 光に包まれ,忽然と姿を消した。


・・・漂着する者が増えている。


ロ-ブを纏っている人物は白い犬の頭を撫でながら物憂げな表情で呟いた。

女性であった。

透き通るほど白い肌に豊かな金色の髪が鮮やかであった。

そのエメラルド色の瞳は、並々ならぬ深い叡智をたたえていた。

もうひとつの世界、ユ-リニオンに変化が起きているのだ。

この時空の歪みは大規模な異変の兆候であった。

彼女はユ-リニオンに対する、シドンやアスラ-ラの介入を察知していた。


イシュタルに・・・
セレナ・・・


後にユ-リニオンに生を受け、世界の均衡を著しく崩していく二人の名を
彼女は輪廻(サンサ-ラ)の輪に見ていた。



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# by mytyan1971 | 2007-06-07 10:56 | 序章 

転章 8

ボ-ミリア平原より北東へ15リーデ。
ここリンデンブロック渓谷においても、激しい戦闘が繰り広げられていた。


夜明け前の、薄明の空に星が落ちた。

年老いた男は、その赤い星を見て彼女の死を知った。


間に合わなかった…

間に合わなかった!


『ラクシュミ!!』


男は呪文を詠唱すると、杖を高く掲げた。

杖の先にある水晶球から白い閃光が迸り、

前方の闇に蠢くゾンビやグールの不死者(アン・デッド)達は、塵となって大地に還った。


『カイン殿!』


ナロニアの騎士達はクレリック(僧侶)の祈りによる、祝福(ブレス)を受けていた。

そうでなければ、氷の女王が擁する【死の軍勢】を相手にする事は、事実上 不可能であった。


『数が、多すぎる!』


まるで、【死】そのもののように、不死者達の群れは後から後から襲いかかってくるのだった。


『もう少しの辛抱だ。あと少しで夜が明ける!』


カインは老いた体にムチを打ちながら、疲労困憊している前衛の若い騎士達を励ました。

ラクシュミ!

ラクシュミ!

後にア-リンの前に立ちはだかる己の姿を、彼はまだ知らない。




闇であった。

底無しに深い闇。

その闇の中に、緑色のローブを纏った男が居た。

石を積み上げて作られた、玄室のようであった。

緑色のローブを纏った男は優雅な手つきで蝋燭に火を燈した。


わずかに揺らめく蝋燭の炎に照らされた、青白い男の顔は妖艶なまでに美しい。

唇だけが異様なまでに、赤かった。


『・・・そなたに死なれては、困る。』


男は低く呟いた。

男の足元には、焼け爛れたア-リンの亡骸が横たわっていた。


『パ-ズ-スに・・・アスラ-ラ。
まだ居るな・・・さしずめデューン伯爵あたりが動いているか・・・。』

『そして、反対の天秤にはシドン・・・。』

『彼は強力だ・・・実に力のある存在だ。』


『・・・娘よ。ア-リンよ。われナ-ラトテップの名のもとに、再びよみがえらん!』


ア-リンの身体は、深い緑色の粘液に包みこまれた。


美しい男は、無表情にア-リンを眺め、優雅な手つきで蝋燭の炎を消した。


玄室に再び闇が訪れた。


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# by mytyan1971 | 2007-06-07 10:55 | 転章 

転章 7

夜明け前のボ-ミリア平原を【氷の女王】の軍隊が悠然と進軍していた。

巨人族やオ-ガ-、ゴブリンやオ-クなどのデミ・ヒューマンが大多数を占めているようだった。

その数は15.000に及んだ。

前方に燃えている城が見えた。

銅鑼が激しく打ち鳴らされ、ラッパの音が響き渡る。

彼らの略奪が始まろうとしていた。


城を放棄したザクソン達は町へと後退していた。

その数1.300。

ドラゴン達によって既に半数以上の兵が倒れていた。

援軍の到着はまだなのか?


しかし、この時 隣国のナロニアからの援軍はリンデンブロック峡谷で【氷の女王】の軍勢と交戦中であった。


援軍の到着は絶望的であった。



ラクシュミは呪文の詠唱を開始していた。

目が霞み、動悸が激しい。

あと一つ・・・それしか呪文を唱える体力は残されていないだろう。

しかし、それにしてもと思う。

よもや、この老いぼれた自分が、
まさか伝説のドラゴンと対峙する事になるとは、夢にも思わなんだ・・・。


ラクシュミの姿を認めた赤竜が降下してきた。

赤竜はラクシュミの魔力を感知した。

既にカイバ-ン達が全滅した事を、若い赤竜は悟っていた。

赤竜の眼は怒りに輝いていた。

それは巨大なルビーを思わせた。



ドラゴンが咆哮し、ブレスを吐いた。

ラクシュミの防御の魔法は、全てを焼き尽くすドラゴンの強力な炎のブレスを弾いた。

次の瞬間、ドラゴンは氷の塊となって地上に落下して、砕け散った。

ラクシュミは、それを見届けて倒れた。

心臓が早鐘のように脈打っていた。

頭痛が酷かった。

暗く落ち込んできた視界に、朝焼けが差し込んできた。

ラクシュミは綺麗だな・・・と思った。




『リチャードに求婚されたわ。』

彼女はついさっき、リチャードにプロポーズされていた。

『そうか・・・おめでとう。よかったナ。』

彼女が聞きたいのは、そんな言葉じゃない。

『・・・あなたは、どうなのよ?』

『えっ・・・』

『とめてくれないの、って聞いてるの!』


全くあの鈍感男ときたら・・・

ラクシュミは20代の若い青春時代を思い返していた。

多分、それは 澱のような しこりとなって彼女の中に残っていたのだろう。


まったく、あんたのせいで、わたしゃ最後まで一人ぼっちだったじゃないか!


『・・・カイン・・・・・・。』


ラクシュミは静かに呟き息絶えた。




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# by mytyan1971 | 2007-06-07 10:53 | 転章 

転章 6

ア-リン!


ア-リンは自分を呼ぶレントの声を聞いた。

小さなエンジェル達が、レントの周りを くるくると旋回して、
傷付いたレントを天上の世界へと運んでいく・・・


それはビジョンであった。


お父さん・・・


ア-リンの両の目から涙が溢れた。
壮絶な父の死を知ったのだ。


ア-リンの内に、悲しみとも 憎しみとも つかない、強烈な感情の渦が沸き起こった。


それは、言語化できない昏い混沌とした・・・【苛立ち】であった。


戦わなければ、滅びる暴風のような侵略戦争・・・。
なんて理不尽な戦なのか。


カイバ-ンが炎を吐いた。


お父さん!


業火に包まれながら、ア-リンは呪文の詠唱を完了させた。
ア-リンは自分に残されていた全ての力を解放した。


突如、カイバ-ンは自身の体が燃えている事に気付いた。


オレが焼かれている・・・?!馬鹿な・・・!!


炎を司る赤竜であった。
しかしア-リンが発した青白い炎は、赤竜の炎への耐性をはるかに凌駕していた。


馬鹿な!?馬鹿な!?馬鹿な!?


カイバ-ンはパニックに陥った。
そして火の球となったドラゴンは,そのまま墜落死した。


ア-リンは崩れ落ちた。
全身に激しい火傷を負った彼女は既に息絶えていた。
その無残に焼け爛れた碧い瞳は、無念の想いで虚空を睨んでいるように思えた。


影が現れた。
それは最初、淡い水墨画のように空間に滲んでいたが、不意に実体化した。


緑色のロ-ブを纏った、グレーの髪が艶やかな
美しい男であった。


彼は無言でア-リンを抱き抱え、現れた時と同様
忽然と、消えた。



カイバ-ンに率いられていた、若い雄のレッド・ドラゴンが一頭 編隊を離れ町を襲っていた。


町に残っていた兵士達はドラゴン・ブレスの脅威にさらされていた。


町にはラクシュミが居た。


ラクシュミはレントとア-リンの死を察知した。


おぉ・・・

何という事じゃ・・・。


ラクシュミは鳴咽した。


何ということじゃ・・・


何ということじゃ・・・



独り身のラクシュミにとって、レントは息子でありア-リンは孫のような存在であった。


ラクシュミは住民達が避難していた地下のカタコンペを、
覚つかない足取りで抜け出し地上に出た。
その年老いた黒い瞳は、上空を旋回する赤竜に向けられた。



かつて妖女ゴルゴン三姉妹を打ち破った魔女は静かに呼吸を整えた。


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# by mytyan1971 | 2007-06-06 19:42 | 転章 

転章 5

すぐ目の前を、川が流れていた。

辺りには薄い霧が立ち込めている。

川の向こうに、二人の人間の姿があった。

二人は手を振っていた。


父上・・・・・・それに母上も・・・


レントの身体は、レントの意志とは関係なく激しい痙攣をおこしていた。


グリーンドラゴンのポイズン・ブレスによって中枢神経を侵されたのだ。

口からはゴボゴボと大量の血が噴き出していた。


オレは逃げなかった・・・。

逃げなかったぞ・・・。


レントは自分を誇りに思った。

代々、勇敢な騎士を輩出してきたダナ-ル家の男に相応しい名誉の死だ・・・。


歩んで来た、これまでの人生が走馬灯のように流れる。


騎士の家に生まれた重圧

厳しかった父

優しかった母

反抗期

冒険

培われた勇気と誇り

ユ-リニオン各地の光景

父の死

前妻であるミンの死

母の死


孤独・・・


・・・シ-マと出会えた事でオレの人生は,本当の意味で豊かになったのだ。

僅かな期間ではあったが・・・彼女のおかげでオレは真の幸福とは何か 知る事が出来た・・・・・・。


可愛い腕白なマシア

勇敢なランドスレイドの仲間達

優しい農園の人々・・・


レントは残されていく人達の無事を心から祈った。

・・・・・・そして


薄れていく意識の中で、レントは最期の力を振り絞って目を開いた。


ア-リン・・・


ア-リン・・・私の娘・・・


レントは ほとんど視力を失った目でア-リンの姿を懸命に追った。


どうか無事で居ておくれ・・・・・・


唐突に光りが溢れてきて、妙なる天上の音楽が耳に優しく響いた。


レントは光に包まれた。


そして、やわらかな無が訪れた。


ボ-ミリアの領主ザクソンは自ら陣頭に立ち兵士達を指揮していた。

しかし、ドラゴンを前に彼等自身あまりにも無力であった。


ザクソンの額は裂け、流れた血は彼の顔を真っ赤に染めていた。

懸命な消火活動も虚しく、城は轟々と炎に飲み込まれていく。


レント殿・・・


視界がぼやけ、ザクソンは涙を拭いた。

ザクソンは、緑竜を討ち 崩れ落ちるレントの姿を遠目に目撃していた。


たった一人で・・・なんという男なのか・・・


ザクソンは退去命令を発した。

城を放棄する時が来たのだ。


目を凝らすと巨大な赤竜が再び接近してくるのが見えた。

その先には小さな魔法使いが居た。


ア-リン・・・


ザクソンは祈った。


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# by mytyan1971 | 2007-06-05 19:04 | 転章 

転章 4

澄み渡る青空に陽射しが眩しかった。

風は凪いでいて、暑い。

砂漠であった。

前方に まるで蜃気楼のような浮遊都市ガ-レ-ンが見えた。

私の前を、確かな足取りで歩いていた人が立ち止まり 呟いた。

『オレは間違っていたのだろうか…』

私は彼の言葉に戸惑った。

彼の口から出る言葉とは思えなかったのだ。

『いえ・・・あなたは正しい事をしています。』

私は言った。

『もうじき帝国は滅びを迎えましょう。人々も蜂起しました。みな、あなたの元に参集します。』

『しかし・・・』

彼の顔は苦渋に満ちていた。

たぶん私にだけ見せる彼の表情・・・。

私は言った。

『イシュタル・・・たとえ待っている先に地獄があろうとも・・・あなたと共に歩けるのならば私は本望です。』

『セレナ・・・』


セレナ・・・

セレナ・・・?

・・・違う

私は

わたしは


ア-リン・・・・・・


ア-リンは目を開いた。

ほんの数瞬の間、意識を失っていたようである。

不思議な余韻を残しながらも、ア-リンは一息に意識を覚醒させた。


城は激しく炎上していた。

巨大な赤竜は旋回し、再び接近してきた。

ア-リンはよろよろと立ち上がり、濛々と立ち込める黒煙の中、呪文の詠唱を開始した。

体力の消耗が激しかった。

おそらくは最後の呪文になるだろう・・・


レントは二度程、緑竜の首筋にム-ン・ブレイドを打ち込んだ。

しかし超硬質の鱗に阻まれ、かすり傷一つ負わせる事が出来なかった。

レントは素早く剣の向きを変え、鱗と鱗の僅かな隙間にム-ン・ブレイドを突き刺した。

剣の尖端がドラゴンの肉に吸い込まれた。

『ガアアァァ!』

グリーンドラゴンが痛みに吠えた。

そのまま首をねじり、レントに向け息を吐いた。


桃のような甘い香りが辺りに漂い、レントは反射的に息を止めた。

その僅かな瞬間に緑竜の尻尾が、横なぐりに襲いかかってきた。

よけきれずレントは弾き飛ばされた。

地面に叩きつけられた衝撃で肋骨の何本かが折れた。

そのうちの一本が肺に突き刺さった。

倒れているレントに緑竜が近づいてきた。

真上からレントを覗き込むようにして毒の息を吐いた。



その咥内をム-ン・ブレイドが貫いた。

一瞬の出来事であった。

それは緑竜の脳に達し、致命傷を負わせた。

緑竜は、激しく痙攣し絶命した。


レントの手がム-ン・ブレイドから離れた。


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# by mytyan1971 | 2007-06-04 19:20 | 転章 

転章 3

ドラゴンは神話の中の存在であり、決して実在するモノではなかった。

少なくても今日までは・・・

ユ-リニオンにおいて語り継がれている、いくつかの神話の中に、
ドラゴン族を統べる王 テンプラ-の記述がある。

テンプラ-は5本の首を持つ巨大な金色のドラゴンとされていた。
彼-あるいは彼女は 一度だけ人類史に、その姿を現した事があった。

それは、今から二千年前に興った超魔法文明の時代に遡る。

先史魔法文明・・・

隆盛を誇った魔法文明はしかし、一人の天才の出現によって終焉を迎えたのであった。

天才の名をイシュタルと言った。

彼は世界を統べる十三人の魔法王達と、七日間に渡って壮絶な魔法戦を展開したのである。
その時、イシュタルに助力を申し出たのがテンプラ-であった・・・。

テンプラ-に率いられ あの戦に参加した時、
カイバ-ンはまだ青年期に入ったばかりで、功名心に駆られた若い闘争的な戦士であった。

はじめてテンプラ-に会った時の感動を彼は今でも覚えている。

テンプラ-は美しいドラゴンであった。
優雅な金色の鱗は、朝焼けの光にも夕暮れの残光にも、
そして優しい月の明かりにも、綺麗な輝きを撒き散らしていた。

・・・多分、彼女はイシュタルに恋していたのだ・・・。

年老いたカイバ-ンはテンプラ-の事を想った。
眼下の城はカイバ-ンのドラゴン・ブレスによって激しく炎上していた。

いずれにしてもだ。
オレも彼女も歳をくったって事さ!

カイバ-ンは笑いの発作を抑えていた。
しかしあの【氷の女王】に加勢する事に一体どのような意味があるのか・・・
カイバ-ンにはテンプラ-の深意を汲み取る事は出来なかった。

しかし二千年ぶりに、思う存分暴れ回っている自分の姿に満足を覚えていた。
位相の違う世界での、退屈な生活に飽き飽きしていたのだ。

カイバ-ンは炎を吐いた。

視界の隅に先程の少女の姿を認めた。

カイバ-ンの中で閃光のように記憶が甦った。



イシュタルに付き添うようにして・・・いつも娘が居た・・・

その娘もまた魔法使いではなかったか・・・?


カイバ-ンはア-リンの放った数十に及ぶ魔法の矢

ル-ン・アローを自身の魔法で防御した。


どこか・・・あの娘を彷彿させる・・・。


カイバ-ンは再びア-リンの真上を通過した。

ア-リンは強烈な風を受け、固い石畳に叩きつけられた。

衝撃で、意識がブラック・アウトした。


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# by mytyan1971 | 2007-06-01 23:14 | 転章 

転章 2

その巨大な赤竜はカイバ-ンといった。

年老いた雄のドラゴンであった。

カイバ-ンは城壁を掠めるようにしてア-リン達の真上を通過した。

通過の際カイバ-ンはア-リンの姿を捉らえていた。

あの娘が・・・

カイバ-ンは一撃のもとに二頭のドラゴンを仕留めたア-リンの魔法に驚愕していた。

しかも雷に対して強力な耐性を持ち、なおかつ雷の魔法を行使するブルードラゴンを
落雷によって葬ったのである。

ありえない話しであった。

これほどまでの魔力の持ち主を見たのは彼以来だ・・・

カイバ-ンの脳裡を一瞬、イシュタルという男の名が掠めた。


身体を傾け旋回する。

もう一度、城に向けてアタックする。

そして焼き尽くす。


ア-リンの呪文は真上を通過した赤竜をやり過ごし、
迫ってきたもう一頭のブラックドラゴンに向けて放たれた。

突如、目の前に発生した氷の竜巻に回避運動をとった黒竜ではあったが、
上空からの落雷をよけきれずそのまま城壁に叩きつけられ死んだ。


異様な光景であった。


空を覆う黒々とした雷雲に、空気はキナ臭く帯電している。
その中を広範囲で、氷片舞う竜巻が発生しているのだ。

まるで天変地異であった。


ア-リンの魔法をかい潜りカイバ-ンは炎の息を吐いた。

それは放射線状に拡散し兵士達に襲いかかった。
超高温のファイヤー・ブレスを浴びた兵士達の大半は一瞬で気化し
巨大な投石器のいくつかが崩れ落ちた。

尖塔に待機していた兵士達は青酸系の毒ガスによって息絶えた。
城に張り付く事に成功したグリーンドラゴンの毒の息を浴びたためであった。


レントはア-リンに身を隠すように言い、尖塔に張り付いている緑竜へと向かった。

レントは援軍の到達が間に合わない事を悟った。

それでも村に身を隠しているシ-マやマシアの無事を祈らずにはいられなかった。

ドラゴンを先頭に平原を進軍するイレーヌの軍勢が夜明け前には到達するだろう。

もっともその姿を目にする事はないだろうが・・・


レントは恐怖していた。
それは自らの死に対してではなく、家族や仲間達をねこそぎ奪われるという恐怖だった。


レントは緑竜に向けて続けざまに3本の矢を放った。
超硬質の鱗に阻まれ2本の矢はあらぬ方向に弾き返されたが、
うち1本は巨大な緑色の眼球に突き刺さった。

ドラゴンが痛みに身じろぎした。


レントは跳躍と同時にム-ン・ブレイドを巨大な緑竜の首に打ち下ろした。


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# by mytyan1971 | 2007-06-01 12:40 | 転章 

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